第20回判例勉強会「責任無能力者の不法行為と監督者の責任~名古屋地裁平成25年8月9日判決」①
およそ2ヶ月前、第20回目の判例勉強会がありました。
今ごろ何を言ってるんだ?!とのツッコミは無しの方向でお願いします。
勉強会で検討された判例は、社会の耳目を集めた事案です。
事案の概要は、「鉄道会社である原告が、高齢かつ認知症患者である男性Bが正当な理由なく線路に立ち入り、通過した列車と同人が衝突したことにより列車が遅延するなどして損害を被ったとして、同人の相続人らに対し、監督義務違反が認められる又は事実上の監督者に該当するとして民法709条ないし714条に基づき損害賠償等を請求するとともに、B本人の損害賠償債務を相続したとして損害賠償等を請求した」というものです。
まず、B本人の損害賠償債務に関しては、認知症患者であったことなどから、事理弁識能力が無いとして棄却しました。
問題は、相続人らに対する監督責任の追及の部分です。
原告の法的構成は二段階となっています。
まず、①民法714条による請求。
民法714条では、責任無能力者が不法行為をしたが、責任無能力であるがゆえに責任を負わない場合、「その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」が代わりに損害賠償責任を負うものと定めています。
そして、②民法709条による請求。
判例上、仮に「責任無能力者を監督する法定の義務」を負わないとしても、監督義務を負うべき者は独自に損害賠償責任を負うとされています。
「法定の義務を負う者」というのは、典型的には「未成年の親権者」であり、法律上、監督責任を負わされている者を意味します。
しかし、親が留守にしているとき、親の代わりに孫の面倒を見ている祖父母は、当然に法定の義務を負う者には当たりません。
この場合、民法714条による請求はできませんが、民法709条による請求は認められる可能性があります。
それでは、民法714条が規定されている趣旨は何かと言えば、「立証責任の転換」にあります。
つまり、民法714条による請求の場合、法的監督義務者が「監督義務を怠らなかったこと、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったこと」の立証責任を負います。
これに対して、民法709条による請求の場合、監督義務を怠ったことについて、請求者が立証しなければなりません。
(つづく)
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