岡弁(岡山県倉敷市の弁護士)ブログ

岡山県倉敷市で法律事務所を経営する弁護士(若手→中堅)が日々の雑感をつぶやきます。紛らわしいですが岡山弁護士会の公式ブログではありませんのでご了解ください(笑)

アイドルによる異性との交際は違法か?(其の参)

引き続き、東京地裁平成27年9月18日判決のご紹介。
 
今回は、争点2【損害の有無及び額】についての判示。
 
 
損害について、原告(運営)は、二つのものを主張しました(一般の方向けに少し説明しますと、損害賠償請求をする場合、裁判所は勝手に損害を算定してくれません。原告が損害の内容を特定し、立証する必要があります。)。
 
1点目として、グループの活動に関して負担した「経費相当額」(Tシャツの作成費用、レコーディング費用、ダンスレッスン費用、衣装代)
 
2点目として、運営が別に立ち上げていた他のユニットのイメージが毀損されたなどとして、「信用毀損」による損害
 
です。
 
 
1点目の「経費相当額」に関する裁判所の判断。
 
 
・経費相当額については、所属アイドルの交際発覚によって解散となったグループの活動のために、交際発覚前に支払われたものであるから、直ちに損害と見ることは困難である。
 
・しかしながら、芸能プロダクションは、初期投資を行ってアイドルを媒体に露出させ、これにより人気を上昇させてチケットやグッズ等の売上げを伸ばし、そこから投資を回収するビジネスモデルであるところ、本件グループの解散によって将来の売上げの回収が困難になったのであり、少なくとも、原告の主張している経費相当額の利益を得ることができた。
 
 
つまり、経費そのものについては、「債務不履行ないし不法行為よりも前に支出されたものなので、損害とは認められない」という判示。
 
はっきりとは書いていませんが、損害は債務不履行ないし不法行為によって発生する(債務不履行不法行為があって、その結果として発生する)ものなので、行為よりも後に発生したものでなければ、そもそも「損害」には当たらない、ということを前提としているということか。
 
もっとも、理論的には、「損害」概念と「因果関係」概念との交錯が起こっているようにも見えます。
 
 
次の二番目の判示が少し面白い。
 
判示からすると、原告は「逸失利益」(交際が発覚しなければ得られたはずの利益)の主張を正面からは行っておらず、あくまでも「将来の利益を得られなくなったため、それまでに支出した経費相当額が無駄になった」との主張を行っていたものと思われます。
 
が、本判決は、原告によるこの主張を善解し、「逸失利益について主張しているものとも解される」とした上で、逸失利益として経費相当額の損害を認めています。
 
下手をすると、弁論主義違反との指摘も受けかねない判示。なかなか大胆ですが、結論としての座りを優先させたというところでしょうか。
 
本件では、原告が経費相当額分の主張しかしていなかったので、その限度で逸失利益を認めていますが、最初から将来得られるはずだった利益を逸失利益としてきっちり主張していれば、もっと認定損害額が増えた可能性があります(判決文だけでは何とも言えませんが)。
 
 
次に、信用毀損に関する判示部分。
 
 
・本件交際は広く世間に明らかになってはいないのであるから、本件グループの他のメンバーやほかのアイドルユニットのイメージが毀損されたとの事実は認められない。
 
 
つまり、運営の信用は毀損されていない、とのこと。

まあ、たしかに、世間一般(不特定多数)に知れ渡っていないのであれば、信用毀損と言うのは無理があるでしょう。ただ、世間一般でなくとも、ファンの一部(ある意味、特定多数?)の間でのみ広まってしまった場合、どのように解するべきか。
 
もっとも、所属アイドル一人の交際が発覚したところで、それだけで運営や他の所属アイドルの信用ないしイメージが毀損されているという主張は、ちょっと飛躍があると思います。
 
 
 
さて、次回は、【交際と損害との因果関係】に関する判示部分をご紹介する予定です。
やっぱり、年内に完結できないかも(汗)
 
 
 
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