岡弁(岡山県倉敷市の弁護士)ブログ

岡山県倉敷市で法律事務所を経営する弁護士(若手→中堅)が日々の雑感をつぶやきます。紛らわしいですが岡山弁護士会の公式ブログではありませんのでご了解ください(笑)

アイドルによる異性との交際は違法か?(其の弐)

それでは、判決内容のご紹介。

 

東京地裁平成27年9月18日判決です。

 

なお、判示内容は、完全な引用ではありません(分かり易くするため若干修正をしています)ので、あらかじめご了承ください。

 

 

まず、争点1【被告(アイドル)の債務不履行責任及び不法行為責任の有無】についての判示。

 

 

・本件交際がファンや事務所に発覚したことは、事務所とアイドルとの専属契約に規定された交際禁止条項に違反する。

 

・一般に、異性とホテルに行った行為自体が直ちに違法な行為とはならない。しかし、被告は当時事務所と専属契約を締結してアイドルとして活動しており、交際が発覚するなどすればグループの交際に影響が生じ、事務所に損害が生じうることは容易に認識可能であった。そうすると、被告がファンとの交際に及んだ行為が、事務所に対する不法行為を構成する。

 

 

前回の記事でこの交際禁止条項の内容を詳しくご紹介しましたが、ポイントは「交際等が発覚した場合」に限定した交際禁止条項になっているというところですかね。つまり、バレなければOK。

 

本件では、バレてしまったので、所属事務所との契約に違反すると判断されたわけです。

 

 

少しよく分からないのが、判示からすると、「事務所に損害が生じうることを容易に認識可能であったこと」を直ちに当該行為の不法行為性を基礎付けるものと捉えているように見える点です。

 

民法709条の解釈論になりますが、「行為者の認識」は不法行為の主観的要件(故意ないし過失)の問題として捉え、それ以外に別途「違法性」ないし「権利侵害」を要件として立てるというのが従来の一般的な解釈であったかと思われます。

 

このような伝統的解釈に対して、いわゆる「過失の客観化」(過失概念は、「主観的注意義務違反」から「客観的行為義務違反」へ変容していったと考えられています)に伴い、違法性と客観化された過失の重複が指摘されるに至り、いわゆる「過失一元論」(過失の他に違法性要件ないし権利侵害要件を考えない)の立場が唱えられるに至りました。

 

本判決は、この過失一元論に立脚しているということかもしれませんが、そうだとすると判示の前半部分で、「異性とホテルに行った行為自体が直ちに違法な行為とはならない」と述べていることとの整合性に若干疑問が残ります。

 

 

以上のとおり、理論的に疑問は残りますが、結論としては、アイドルがファンである異性と交際したことについて、所属事務所に対する債務不履行責任及び不法行為責任を負うとされました。

 

もちろん、異性との交際が発覚したからと言って、ファンに対する法的責任が生じるわけではありません(ファンが減るという社会的制裁は予想されますが…)。

 

この判決が明確に述べているわけではありませんが、やはり交際そのものを違法と認定することは難しいと個人的には思いますので、アイドルと異性との交際が発覚したことでファンがいくら精神的苦痛を受けたとしても、責任を問うのは難しいと思います。

 

もっとも、この判決の論理(過失一元論?)だけからすると、「ファンが傷付くのは容易に認識できたはずだ」ということで責任が認められてしまう余地があるようにも見えます(もっとも、そのような大胆な判断をしてくれる裁判所があるとは思えません)。

 

 

次回は、争点2【事務所に生じた損害の有無及び額】についてご紹介する予定です。

(年内に完結できるか微妙になってきたかも?!)

 

 

 

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