改正債権法勉強会
昨日、改正債権法勉強会の第1回目を行いました。
120年ぶりの民法大改正であり、実務に多大な影響を及ぼすものですので、施行日(2020年4月1日)までにしっかりと準備しなければなりません。
基本テキストとしてこちらの本を利用することにしました。
逐条で改正のポイントがまとまっていて、とても良い本だと思います。
毎回、条文を一つずつ追っていく形で、改正事項や実務への影響の有無を確認していく予定。
一人で勉強するのとは異なり、複数の弁護士が集まって検討会をすると、自分では気付かなかった問題点に気付かされることも多いものです。
条文の確認をした後は、こちらの本に載っている事例を何題か検討しました。
検討会の中で、この本のある事例の設定に問題があるのではないかという指摘がありましたので、紹介させていただきます(本を参照しないと意味が分かりにくいと思います。すいません。)。
この本に掲載されている事例8、「錯誤者の重過失」に関する事例です。
簡単に言うと、「Xが重大な過失により売値100万円と言うべきところを10万円と言ってしまった」という表示行為の錯誤の事例で、かつ、表意者Xも相手方Yも商品を「甲の作品」だと思っていたが実は「丙の作品」だったという動機の錯誤があったという事例です。
出題者の意図は、改正後民法95条3項2号(共通錯誤)の適用により、Xは意思表示の取消しをすることができるという結論を導かせるものであったと思われます。
しかしながら、改正後民法95条3項柱書の「錯誤」と、同条2号の適用対象とされる共通「錯誤」は、同一の「錯誤」でなくてはならないのではないか、という指摘がありました。
たしかに設例は、「10万円で売るよ」というXによる表示行為の錯誤に重過失があったという事実関係を前提に、甲の作品でなく丙の作品であったという共通錯誤について改正後95条3項2号の適用を問うものになっており、両者の「錯誤」が混同されてしまっています。
(改正後95条3項を適用するためには、表意者に重過失のあることが前提となりますが、本事例において、Xが商品を甲の作品であると判断したことについて重過失があるとは言い難い)
つまり、この事例に改正後民法95条3項2号を適用するのは不適切ではないかという指摘です。
たしかに、本条が共通錯誤の場合に錯誤取消しを認める趣旨は、共通錯誤がある場合、表意者の錯誤に基づく意思表示に対して相手方が寄せる信頼(上記の事例で言えば、Xが商品を「10万で売るよ」と言ったことに対するYの信頼)を保護する必要がないためだと考えられますので、全く異なる共通の「錯誤」を理由に本条を適用することはできないと考えるのが筋かと思われます。
とすると、本設例については、
①100万円を10万円と言い間違えてしまった表示行為の錯誤についてはなお改正後民法95条3項1号により、
②甲ではなく丙の作品であったという動機の錯誤については改正後民法95条1項2号及び同条2項により、
それぞれ取消し可能であり、改正後95条3項2号は問題とならない、との結論を導くことになります。
あるいは、立法者はこのような錯誤についても改正後95条3項の適用対象であると考えているのでしょうか…