岡弁(岡山県倉敷市の弁護士)ブログ

岡山県倉敷市で法律事務所を経営する弁護士(若手→中堅)が日々の雑感をつぶやきます。紛らわしいですが岡山弁護士会の公式ブログではありませんのでご了解ください(笑)

「マハン海上権力論集」を読みました。

マハン海上権力論集 (講談社学術文庫)/講談社



アルフレッド・セイヤー・マハンは、19世紀後半から20世紀初頭に生きたアメリカ海軍の軍人です。

海上権力」に注目したマハンの論文は、アメリカだけでなく世界中の国家の外交・軍事戦略に大きな影響を与えたと言われています。

我が明治日本も例外ではなく、アメリカ留学中の秋山真之日露戦争における連合艦隊作戦参謀)がマハンに直接師事しているほか、その後の海軍戦略にも大きな影響を与えたと言われています。

なお、秋山がマハンに師事する場面は、司馬遼太郎の「坂の上の雲」にも描かれているので、ご記憶の方も多いことでしょう。


この「マハン海上権力論集」は、マハンが1890年から1900年にかけて発表した論文を抄録したもので、マハンによる海上権力(シーパワー)理論のエッセンスが詰め込まれています。

さらっと「海上権力」と書いてしまいましたが、「国家が海洋を利用し海洋を支配するための総合的な力」のことで、単なる「海軍力」のことではありません。

マハン理論は当時の植民地政策を前提としたものではありますが、そのエッセンスは現代にも通用するものと言えるでしょう。

もっとも、浅薄な読み方をしていると、容易に軍国主義的なイデオロギーに絡め捕られてしまう危険性のある論文であり、戦後日本において忌避されてきたことにも頷けるものがあります。

しかし、マハンの論文をしっかりと読めば、単なる軍国主義イデオロギーとは全く異質のものであることは明らかです(マハン自身も明確に軍国主義を否定しています)。

また、いかに航空機が発達したとは言え、大量の物資輸送については、なお海運に依存せざるを得ない状況であり、シーレーンの確保が現代国家にとって重要な国家的課題であることは論を俟ちません。

それだけに、イデオロギー的に目を背けてしまうのはあまりに勿体ない。

そういうわけで、現代においてもマハン理論から学ぶべきことは多いと思います。



本書に収録されている論文は以下の八つ。

海上権力の歴史に及ぼした影響(抜粋)

・合衆国海外に目を転ず

・ハワイとわが海上権力の将来

・20世紀への展望

・海戦軍備充実論

・アジアの問題(抜粋)

・アジア状況の国際政治に及ぼす影響(抜粋)

冒頭には訳者による解説が付されており、収録論文の内容や我が国におけるマハン理論の受容などが簡単にまとめられています。

この中で特に面白く読ませてもらったのは、「20世紀への展望」と「アジア」がテーマになっている最後の二つ。

当時の超大国「英国」との関係や、西洋文明と東洋文明の対峙に関する論考となっています。

西洋文明の優位に対する絶対的な「信仰」、そして随所にみられるアメリカ人特有のメンタリティーがとても印象的です。

宗教的価値観の異なる東洋文明に対する漠然とした「恐怖」と「憧憬」は、当時、西洋世界から見た東洋に対する一般的な感覚だったのかもしれません。

マハンは、西洋における宗教的理念(早い話がキリスト教的価値観)に対する強い信頼を表明する一方、これを受容しないまま物質的繁栄のみを追い求めようとする東洋に対して不信感を露わにしています。

マハンが第一次世界大戦による西洋文明の「破滅」を目にしていたら(マハンは第一次世界大戦が始まった1914年の12月に亡くなっています)、果たしてどのような感想を抱いたでしょうか。

同時代人ではなく、その後の世界を知っている我々だからこそ、感じることが色々とあると思います。



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