曽村保信「地政学入門-外交戦略の政治学」を読みました。
地政学入門―外交戦略の政治学 (中公新書 (721))/中央公論社
前回ご紹介の本に引き続き、地政学のお勉強。
この本では、
マッキンダーの地政学(英系)
ハウスホーファーの地政学(独系)
アメリカにおけるモンロー主義の系譜(とりわけ、スパイクマンによる米系地政学)
などが取り上げられています。
米ソ冷戦下において書かれた本だけに、仮想敵国としての「ソ連」を意識した記述が随所に見られますが、思考過程のエッセンスは今日においてもなお通用するものであると思われます。
この本を読むと、いかにアメリカ合衆国という国が「合衆国の利益に反する」という理由で他国の紛争に介入し、親米政権を各地に作ることに意を払ってきたかということがよく分かります。
アメリカは明らかに地政学の知見を踏まえた外交戦略を展開しており、伝統的なアメリカの外交戦略を理解する上で、地政学的な物の見方というのは避けて通れないのだとあらためて感じました。
もちろんアメリカだけに限らず、様々な国が地政学的な観点から外交判断を行っていると予想されます。
国際関係において常識では理解しがたい事象が発生した場合、地政学的な観点から考察すると理由が明解に理解できるケースがかなりあるのではないでしょうか。
余談ですが、太平洋戦争中のミッドウェー作戦の際、我が帝国海軍がアリューシャン列島のダッチハーバーを空襲するという陽動作戦を展開した理由がこの本を読んで初めて分かりました。
地政学的な知見がなければ、なぜ陽動作戦の場所としてダッチハーバーが選択されたのかを理解することはできないと思います。
これまでずっと「どうしてあのような大して重要とも思えない辺境の島を攻撃したのだろうか。それで陽動作戦になるのだろうか。」と思ってきました。
しかし、当時海軍が保有していた艦艇や航空機の航続距離を考えた場合、もし日本がアメリカの本土に迫ろうと思ったら、アリューシャン列島からアラスカへ渡り、そこから南下していく針路が最も確実かつ可能性が高いのですね。
そのような地政学上の知見を逆手にとって、ダッチハーバー空襲という陽動作戦が採用されたのだと思います。
話を元に戻しますが、この本は「入門書」とは言っても昨今流行の「サルでも分かる」式のものではありません。
地政学のエッセンスをギュッとコンパクトに凝縮したものであり、下手に近づくと返り討ちに遭いそうです。
この本をきっかけにして色々な本を読み漁り、もう一度この本に帰って来ることができたら、全く違った読み方ができる気がします。
いわゆる「行間」を読むというヤツです。
世の中には、行間を味わえるようになって初めてその真価を発揮する本というのがあります。
法律書でいったら「芦部憲法」みたいな。
昨今は、絵や図式で視覚的・直感的に読者へ訴えかけるような「サルでも分かる」式の入門書が流行っています。
そういった本の効用は否定しません(私も好きでよく買います)が、私の経験上、そのような本はいくら読んでも本質的な理解にはつながりません。
このような本が流行るのはテレビの影響かなとも思うのですが、そのような受動的な読書体験では得られないものもあります。
これに対して、本書のようなある意味では「不親切」な入門書は、入口としての役割を果たしつつ、出口としての役割をも果たし、理解をさらに一段深めてくれるのだと思います(現時点ではあくまでも予想)。
本書が昭和59年の初版以来長年に渡って増刷に増刷を重ねているのは、(類書が少ないという事情はあるにせよ)「噛めば噛むほどほど味が出る」といったような古典的名著が等しく備えているべき要素を備えているからなのではないでしょうか。
近い将来もう一度読みたい本です。
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