岡弁(岡山県倉敷市の弁護士)ブログ

岡山県倉敷市で法律事務所を経営する弁護士(若手→中堅)が日々の雑感をつぶやきます。紛らわしいですが岡山弁護士会の公式ブログではありませんのでご了解ください(笑)

森山優著「日米開戦と情報戦」を読みました。

連休中の読書記録(その3)。

 

森山優氏の「日米開戦と情報戦」。

 

日米開戦と情報戦 (講談社現代新書)

日米開戦と情報戦 (講談社現代新書)

 

 

少し前に同じ著者の「日本はなぜ開戦に踏み切ったか」を紹介したが、本書は、この「日本はなぜ開戦~」と一体のものとして構想されたものだとのこと。

 

「日本はなぜ開戦~」の方は、国家意思決定システムの観点から日米開戦を論じた本であるが、こちらはインテリジェンスの観点から論じた本という位置付けになる。

 

「インテリジェンス」という言葉が耳慣れないという方もおられるかもしれない。

 

最も近い日本語で言い換えると、「諜報活動」である。

 

といっても「諜報活動」から一般的にイメージされるような、いわゆる「スパイ活動」とイコールではない。

 

「インテリジェンス」には、公開情報などからの合法的な情報収集活動が含まれる。

 

例えば、新聞や雑誌など純然たる公開情報の収集による諜報活動は、「オシント」(OSINT:Open Source INTelligence)と呼ばれ、全体の9割を占めると言われている。

 

ちなみに、いわゆる「スパイ活動」を含む、人を介した情報収集活動は、「ヒューミント」(HUMINT:HUMan INTelligence)と呼ばれる。

 

そして、この本で取り扱われているインテリジェンスは、主に「シギント」(SIGINT:SIGnals INTelligence)と呼ばれる通信傍受や暗号解読などによる情報収集活動である。

 

 

この本を読むと、当時の英米日それぞれのシギントのレベルがだいたい分かるだろう。

 

インテリジェンスのレベルは、暗号解読技術とイコールではない。

 

「インテリジェンス」には、暗号解読等によって得られた「生の情報」を「分析」する作業が含まれるためだ。

 

漠然としたイメージだが、イギリスとアメリカとを比べると、総じてイギリスの方が、情報の正確な意図を掴んでいたようである。

 

そして、この本の中では、日本政府の発した暗号電文の正確な意図をアメリカが掴み切れていなかった(そもそも電文を誤読していたケースもあった)ことにより、日米関係に悪影響を及ぼした影響が指摘されている。

 

つまり、日本政府の本当の意図をアメリカが誤解し、日本に対する強硬姿勢を強めた可能性である。

 

また、政策決定に強い影響を及ぼす政府首脳が、インテリジェンスによって「加工」されていない「生の情報」に直接触れるリスクについても指摘されている。

 

すなわち、政策決定者が、インテリジェンスによる加工を経ていない「生の情報」を負のバイアスを通して見た場合、当事国の意図を誤解し、外交関係に悪影響が出てしまうリスクである。

 

 

もう一つ、日本軍の南部仏印進駐後の石油全面禁輸が日米開戦を決定づける直接的な要因となったことは有名であるが、当初、アメリカ政府は「全面禁輸」を意図していなかったということを、(恥ずかしながら)この本で初めて知った。

 

当時、英米においても、石油禁輸が日本の武力行使を誘発する可能性が高いことは認識されており、日本との戦争準備が整っていない両国においては石油禁輸に対する根強い反対論があった。

 

実際、ルーズヴェルト大統領を含むアメリカ政府首脳も当初は「許可制」を予定しており、ライセンスも現に発行されていたが、アメリカ政府内部で手続が進められているうちに、いつの間にか「全面禁輸」になってしまったということらしいのだ。

 

この間の経緯についての真相は未だに謎とされているようだが、当局者が誤ったインテリジェンスに基づくバイアスを通して実務処理に当たったため、本来意図されていなかった措置が誘発された可能性があるらしい。

 

 

インテリジェンスというのは時に歴史を変えてしまうのだ、ということがよく分かった。

 

それだけに、インテリジェンスの在り方については、国家意思決定システムの問題として検討しなくてはならないということだろう。

 

 

 

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