関川夏央×谷口ジロー「坊ちゃんの時代」再読。
2月11日、漫画家の谷口ジローさんが亡くなりました。
「孤独のグルメ」の漫画家として有名な方です。
もちろん「孤独のグルメ」も読んでいますが、谷口さんにはもっとオススメの漫画があります。
それが今日ご紹介する 坊ちゃんの時代(全5部)。
谷口さん自身も、生前、特に思い入れのある作品と語っていたそうです。
以前、漫画を読む習慣の無かった時代に愛読していた数少ない漫画の一つ。
文庫版を持っていたのに、新装版の発売と同時に買い替えてしまいました。
時代設定は日露戦争後、明治末期の日本。
これほど明治という時代の「空気感」をリアルに可視化した漫画は空前絶後ではないでしょうか。
例えるならば、美しく、儚い、夕陽が沈んでいくわずかな間のような歴史上のシーンとして捉えられています。
第一部の主人公は夏目漱石。
坊っちゃんの制作秘話が中心的なテーマとなっていますが、この部分については太田仲三郎の「明治蹇蹇匪躬録」が原作になっているそうです。
第二部の主人公は森鷗外。
有名な「舞姫」事件が中心的テーマとなっていますが、二葉亭四迷なども登場します。
この部だけ少し時系列が逆転しており、鷗外の青年時代が描かれています。
第三部の主人公は石川啄木。
脇役である金田一京助との交遊も描かれます。
どんなに貧困状態にあっても享楽的「生」を全うしようとする啄木の姿に、読んでいて胸が締め付けられます。
第四部の主人公は幸徳秋水。
いわゆる大逆事件が中心的テーマになっています。
作者は大逆事件を近代日本の曲がり角と位置付けており、日露戦争後の日本が陥った精神的危機が描かれます。
第五部の主人公は再び夏目漱石。
有名な「修善寺の大患」が中心的テーマとなっています。
(夏目漱石は胃潰瘍の療養のために訪れていた修善寺温泉で大吐血し、瀕死の状態となりました。実際には30分間「死んでいた」と言われています。)
作者はこの第五部が描きたくてこの物語を書き継いできたのではないかと思います。