岡弁(岡山県倉敷市の弁護士)ブログ

岡山県倉敷市で法律事務所を経営する弁護士(若手→中堅)が日々の雑感をつぶやきます。紛らわしいですが岡山弁護士会の公式ブログではありませんのでご了解ください(笑)

内田樹さんの文章について~準備書面の作成と関連しての雑感

街場の憂国論 (犀の教室)/晶文社


内田樹さんの「街場の憂国論」を読みました。

内田樹さんをご存じの方がどれくらいいらっしゃるか分かりませんが、私の中ではかなり好きな部類に入る現代思想家?です。

巷では、内田さんの熱心な読者を「タツラー」と呼ぶそうです。

私は、ウチダセンセ(著書の中でたまに出てくる一人称)の文章を、砂漠の中のオアシスを求めるがごとく、無性に読みたくなることがたまにあります。

貪るようにして著書を数冊読み、「渇き」を癒し終えると、またしばらく離れるということを繰り返しています。

ウチダセンセの本を読んでいると、頭のエンジンが音を立てて起動するのが分かります。

ある特定のイシューに対する切り込み方の斬新さや、ボキャブラリーの豊富さにも驚嘆すべきものはあります(それでいてスノビッシュな印象を与えないところがさらに驚異的です)が、私が最も感心するのは(上からで申し訳ありません)、「語ることが難しい問題」について、どのような表現方法を用いようとも(といっても、書籍という媒体の性質上、言語的方法に限られますが)、読者に何とか伝えようとする意志の強さです。

この点は、弁護士として裁判官に読んでもらう準備書面を作成するに当たっても見習わなくてはならない点です。

弁護士が日々作成する準備書面には、大きく分けて4つの段階があると思っています。

一番まずいのは、法律的文書としての体裁をなしていないもの。
このような書面を見ると、間違って司法試験に受かってしまった弁護士なのだろうなと思わざるを得ませんね。

次に、一応、法律的文書としての体裁をなしており、教科書的・定型的な(誰でも予想できる範囲の)内容が一通り記載されているが、事案の特殊性に応じた発展的な内容(教科書の範囲を超える内容)については記載されていないもの。
司法試験の目的は、このレベルの書面作成能力を備えている法曹をコンスタントに確保することにあるといってよいと思います。
逆に言うと、司法試験が担保しているのは、この程度の最低限の能力に過ぎません。

次の段階が、法律的文書としての体裁をなしており、教科書的・定型的な内容を備えているほか、事案の特殊性に応じた応用的・発展的な内容についても一応記載されているが、裁判官の共感を得られるほどには十分でないもの。

そして、理想的な準備書面は、法律的文書としての体裁をなしており、教科書的・定型的な内容を備えているほか、事案の特殊性に応じた応用的・発展的な内容についても説得的に記載されているものです。

「事案の特殊性に応じた応用的・発展的な内容」というのは、まだ先例のない争点に関するものであったり、規範への当てはめの部分であったり、裁判例などを参考にしながらも、弁護士自身が自分の頭で考えなければならない部分です。

理想的な準備書面というための必要的記載事項である「事案の特殊性に応じた応用的・発展的な内容」について、裁判官の共感を得られるような書面を作成することは、必ずしも容易なことではありません。

主張の「イメージ」を裁判官に分かるような言葉に翻訳するという作業は骨が折れます。

書面を提出してしまった後に、「こういう表現の方が分かりやすかったかも」という自省をすることもよくあります。

しかし、ウチダセンセの本を読むと、「語ることの難しい問題」について、噛み砕いて何としても伝えたいというその姿勢から勇気をもらうことができるのです。

「語ることの難しい問題」を何とかして裁判官に伝えるという、絶え間ない日常に挫けそうになったとき、私はウチダセンセの本を渇望するのかもしれません。

なんだか文体までウチダセンセっぽくなってしまっている気がします(笑)

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